”笑う門には福来る”とよく言われますが、笑いと健康との関連が近年注目されています。Oncologist誌の9月号では笑いをがん治療現場で使うための具体例が示されています。
Laughter: the best medicine?
Penson RT, Partridge RA, Rudd P, Seiden MV, Nelson JE, Chabner BA, Lynch TJ Jr.
Oncologist. 2005 Sep;10(8):651-60.
結論としては、医療現場で笑いやユーモアを有効に使うことは、がん患者さんなどの痛みや心理状態を改善させる効果があるが、使うタイミングを間違わないことが大切であるということでしょう。
確かに、心理的に落ち込んでいる患者さんに対してやみ雲に冗談を言ってもむしろ逆効果でしょうし、笑いを治療法の一つと考えれば、適応や投与するタイミングが大事と思われます。
元淀川キリスト教病院のホスピス長で、金城学院大学学長の柏木哲夫先生の講演を聞かせてもらったとき、柏木先生がホスピス内で上手にユーモアを使っていらっしゃったお話をしていました。
例えば、柏木先生は一時退院する患者さんが体調面に不安を感じていらっしゃるとき、「大丈夫。私が太鼓判を押します。」とよくおっしゃったそうですが、その時、実際に太鼓判なる大型のハンコを作って、患者さんに押してあげたそうです。太鼓判って本当にあったら面白いと思う人はいるでしょうが、そのアイデアを即実行するところが実にいいですよね。
この論文の中でもユーモアの具体例がいくつか紹介されています。
ある医師は、新しいスタッフが入ってきた時に、患者さんに悪いことを伝える手段の一例として“cat on the roof”というお話をするそうです。
「屋根の上のネコ」というこのお話、具体的には、
大学生のチモシーが実家の弟に電話しました。
「ジョン、お兄ちゃんだけど、最近変わったことはない?」
「あっお兄ちゃん、…変わったことと言えば、お兄ちゃんのネコ死んじゃったよ」
チモシーは驚き、悲しみ、しばしすすり泣いたあと
「ジョン、あのなぁ悪いニュースをそんなふうに言っちゃいけないよ。お前はそのネコを僕がどれだけかわいがっていたかをよく知っているだろう?お前はこんなふうに言うべきだったよ」
「まず、”お兄ちゃんのネコが屋根の上に登っちゃって、自分達が助けようとしたけど助けられなかったから、消防車を今呼んだところだよ”と言うんだよ。そうすれば、お兄ちゃんはまた2、3時間後に電話するだろう?そしたらお前は”消防車が来る前に、ネコが屋根から落ちちゃって大怪我をしちゃったんだよ。今、ちょうど獣医さんのところに連れて行ったところだよ”と言う。そしたら、またお兄ちゃんは2、3時間後に電話するだろう?その時になって初めて”お兄ちゃん、残念ながらネコが死んじゃったんだよ”と言ってくれたら、お兄ちゃんもある程度覚悟が出来ているからこんなにがっかりしなくてすんだのに…」
「お兄ちゃん、本当にごめんよ。そんなふうに言ったらよかったなんて全然気がつかなかったよ。」
「いいんだよ。お前はまだ幼いし、これからそういうことを徐々に覚えていけばいいさ。」
「お兄ちゃん、ぼくもう大丈夫、もう大丈夫だよ。」
「わかったよ。じゃあ家の中で何か他に変わったことない?」
「あのね、お兄ちゃん。実はママが屋根の上に登っちゃったんだ。」
ちゃんとオチがあったのですね。
もう一つ、ある医師が患者さんに使って失敗した例を、
私は、患者さんの部屋に行って、検査をする時、カーテンを閉めながらいつもはこう言います。
「さあ、これで即席のプライバシー(instant privacy)空間の出来上がりです。」
これは、自分でも結構いい表現だと思いますが、ある日、間違ってこう言ってしまいました。
「さあ、これで即席の二人のための(instant intimacy)空間の出来上がりです。」
ちょっと面白さが伝わらないかもしれないので、原文では、こんな感じです。
I often close the curtain in the exam room and would usually say, “Okay, now we have instant privacy,” which is fine.
I made a mistake once and said, “Now we have instant intimacy.”
intimacyは「親密さ」を表す表現ですので「愛情行為」を遠回しに言う表現でもあることが面白いところです。
患者さんのためのプライベートな空間が、二人の愛情行為を実施する場所になってしまったのですね。
意訳して、こんな感じにしたほうが伝わるかも?
私は、患者さんの部屋に行って、検査をする時、カーテンを閉めながらいつもはこう言います。
「さあ、こうすれば裸になっても誰にもみられませんよ」
ある日、間違ってこう言ってしまいました。
「さあ、こうすれば裸で(あれを)やっても誰にもみられませんよ」
うーん。今ひとつかな。
ともあれ、ちょっとしたいい間違いが変な誤解を受けることはよくあるものです。
それで思い出したのが、私の友人の研修医時代の失敗談。
医師が聴診したときによく言う表現として、「胸の音は問題ありません。」というのがあります。これはもちろん、心臓や肺の音に問題がないということです。
ある日友人が、若い女性を診察したとき、
「胸の音に問題ありません。」と言うべきところを、間違って
「胸の形に問題ありません。」と言ってしまったそうです。
もちろん、すぐ気付き、慌てて言いなおしたそうですが、例え意識していなくても(むしろ意識していないだけに?)誤解を招きかねない表現ですよね(聞いたこっちは大笑いしましたが)。
自分が経験したものとしては、医師になってすぐの頃、地方都市の病院で診察をしていて、
「最近、(目の下に)くまはでますかねぇ?」と聞いたとき、
「あっそういえば、昨日出たみたいだって言っていました」
「えっ?誰が?」
「うちのおばあちゃんが」
「自分では、(目の下の)くまに気がつかないですか?」
「自分ではみたことないですねぇ」
「じゃあ、おばあちゃんに言われたんですね」
「ええ、電話で」
「???」
そうです。患者さんは熊のことを言っていたのですね。
どうりでかみ合わないわけです。
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